坂本夏子です。
前回の続きです。
HIV 陽性者を採用して、同僚が
障害名を知ったため、困った
ことになったのでした。
最初は、問題が起きてしまった
からには、社内で、部長以上
には、状況のシェアをしておく
べきか、と、私は考えたのです。
でも、上司が、別のアイデアを
持っていました。
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俺たちだって、HIVのことを、
実はまだよく知らないだろう。
だったら、俺たちが勉強するのが
先じゃないのか?
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上司、ときどき、いいことを
言うな。。。
私も、TVのニュースや新聞から、
HIVは職場では問題ない、と
知っていただけです。
勉強会をやることにしました。
誰を先生にしようか?
病気の話だから、講師は
お医者さんだな。
人事のメンバーが、陽性者本人と
相談し、なんと、本人の主治医が
登場です。
その先生は、当時、おそらく
日本で最も、HIVの臨床経験が
豊富な方だっただろうと推測
します。
都立病院の感染科部長でした。
熱く語ってくれました。
例えば、
エイズって何?
HIVって何?
感染の経路は?
どんな治療法があるの?
治療法の変遷は?
どうして、世の中で偏見を持たれ
るようなことになってしまったの?
ちなみに、HIVの感染経路は、
限られています。
– 精液・膣液
– 血液
– 母子感染(妊娠・出産)
そして、感染力は弱いです。
これが、職場での感染リスクは
低いという理由です。
そういった全体像のあとに、
社員本人の病状も、数値とともに
教えてくれました。
先生は、「そこまで話すよ」という
ことを、本人に伝えた上で、
そうされたんだと思います。
質疑応答も行い、三つ質問が
出ました。
Q1: HIV 陽性者を職場に
迎えるにあたって、どんなことに、
注意すればよいでしょうか?
A1: 何もしなくて結構です。
え? なんで?
仕事に影響するような病気では
ありませんし、本人は、自分で
病状を理解し、自己管理もできて
います。大人です。なんの心配も
いりまん。
おたくの会社にもいろんな病気の
人がいると思います。
糖尿病の人、心臓が弱い人、
便秘がちな人。
それをいちいち発表して、この人
は糖尿だから、どうのこうの、
って何かしますか? しないでしょう。
それと一緒です。
確かに~!
Q2: HIV は他の感染症に
比べて、どうなんでしょうか?
A2: 感染力はとても弱いです。
B 型肝炎、 C 型肝炎と比べても
感染力が、1/10だか1/100だか
とのことでした。
へー、そうなんだ!
当時、会社には B 型肝炎の社員
がいました。彼が入退院を繰り
返したり、一番、大変だった時は、
在宅勤務をしながら、仕事を
続けていたのを、周りは知って
います。
その人がOKだから、HIV の人も
OKじゃん。
Q3: 血が出た時どうすればいい
んでしょうか?
これは当然、みんな気にします
よね。
先生の答えはこうでした。
出血はもちろん注意すべきです。
でも HIV は感染力が弱いので、
大量に血が出ていて、しかも
湿っている状態でない限り、
やみくもに心配する必要はあり
ません。
B型肝炎、C型肝炎向けの
対策でOKなのです。
最後に、私の人生を変えた、
ことばが出てきました。
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むしろ、本人がケガをして出血
した場合は、本人を守ることを
考えてください。
清潔なタオルでも職場に備え付け
てあれば、それでくるんであげて
ください。
タオルがなかったら、きれいな
ジャケットでも構いません。包んで
あげてください。
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それを聞いた時、私は一気に
視界が広がりました。
そして思ったんです。
自分たちは自分たちを守ること
ばかり考えていたけど、その人を
守るという発想が必要なんだ。
考えてみれば、あたりまえです。
免疫機能障害です。免疫力が
多くの人より低いのです。
だったら、同じケガをしても、
その人は、ダメージがより大きい
はずです。
これは、ものすごいブレーク
スルーになりました。
そういう話を2時間、びっちり
聞いた後は、心がヘロンと溶けて
しまい、ことばにはできない感動
がありました。
勉強会終わって、動揺していた
同僚たちに聞いたんです。
どうだった? と。
ありがとうございました。
勉強になりました。
これから、また一緒に
仕事できる?
はい。大丈夫です。
そして、この話には後日談が
あります。
そういうことがあった後だけに、
それ以後、職場の連帯感が
強まった、というんですね。
逆転満塁ホームランを打った
気分で、私は嬉しかったです。
で、肝心の、社内対策です。
もともと、勉強会は、社内での
対策を検討するための、情報収集
の目的で行ったのです。
でも、先生の話を聞いた後は、
何もしなくていい、と納得。
結局、何もしませんでした。
障害の内容だって、プライバシー
情報ですし。
会社の中に、新しい『あたりまえ』が
できた瞬間でした。
この経験から、私は、味をしめて
しまいます。
次回に続きます。
ではまた!
坂本 夏子
ことば屋&人事屋
LABプロファイル®
マスターコンサルタント
トランスフォーメショナル
コーチ®