【飛躍のヒント】 #133 ハラスメントへの対応戦略

シリーズ第3弾です。

前回のお約束により、

「常に敬意をもって人に接する」という、ハラスメントに関する最重要事項を、どのように実現させるのか、という話をします。

戦略はこれです。

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戦略

1. ダイバーシティとセットで取り組む

2.ハラスメントを容認しないことについての体制を整備する

3.社内教育を徹底する

4.事例が発生した場合は、迅速・丁寧・断固を軸として行動する
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この4つです。

では、一つ一つ、詳細を見ていきましょう。

そして、最後に、人事としての本音のつぶやき を書きます。

1.ダイバーシティとセットで取り組む

ダイバーシティは、私の好きなテーマで、これだけで、いくらでも記事がかけてしまいます。

ここでは、簡単に説明するにとどめます。

ダイバーシティとは、

「この世界はいろいろな人で成り立っている」
「その一人一人が、価値ある存在である」

という前提にたった考え方で、

「いろんな人のいろんな力を集めて、この世界を、よりよい場所にしていこうね」

という概念です。

「ハラスメントを容認しない」という概念より、上位に位置します。

それは、チームであれば、どこでも使える、大切な考え方です。チームとは、共通の目的に向かって一緒に活動する、人々の集団ですね。企業、役所、NPO、お店、医療機関、部活動、マンションの管理組合、その他、いろいろあります。

ダイバーシティにおいては、違いを認め、違いに価値をおきます。

では、違いとは何でしょうか?

人を、他と分ける特徴です。

単なる特徴で、そこに、良い悪いや優劣はありません。

違いには階層があります。

レベル1: 属性  - 人種、国籍、性別、性自認、年齢、職業、学歴、出身地、障害、性的指向、役割、役職、婚姻状況など、客観的な違い

レベル2: 思考・行動  - パーソナリティ、個性、強み、得意、価値観、信条、視点など、個人としての文化の違い

レベル3:    能力  –  保持している能力の度合いの違い

集団の、ダイバーシティについての意識レベルの向上に伴い、所属する人々が葛藤する違いのレベルが上がっていきます。

職場がレベル1の違いを認め、メンバー間の、それらの違いを活かせるようになると、レベル2に進みます。レベル2で成功すると、レベル3に進みます。

ハラスメントに話を戻します。

ハラスメントは、ダイバーシティの推進を妨げます。

そして、ハラスメントだけを取り上げると、あれはだめ、これはだめ、どこが線引き?

といった、小手先の議論に走ったり、

「さわらぬ神にたたりなし」といった、本末転倒な議論に陥りがちです。

なので、互いに敬意をもって接し、みんなが一緒に仕事をして成果を出す環境を作り、ハラスメントをなくしていくためには、

上位概念としてのダイバーシティとセットで取り組むと効果的です。

ダイバーシティの考え方が組織に根付けば、ハラスメントは自ずと消える、もしくは、問題が起こっても、その質が高まっていきます。

何事も、土台を整えることが重要ですので、経営者や、組織のトップの皆さんには、ダイバーシティを組織運営の最重要概念と位置付けることをお勧めします。

次は、戦略その2 です。

2. ハラスメントを容認しないことについての体制を整備する

体制の整備には、大きく分けて二つあります。

1) 規程を作る。
2) 事例発生時の対応体制を作る。

ではまず、

1) 規程を作る  から。

規程にも二つのポイントがあります。

1) 就業規則の中で、ダイバーシティやハラスメントに言及する。
2) ハラスメントについての規程を新たに作る。

就業規則では、服務規律、行動基準、懲戒等の条項でダイバーシティやハラスメントについての内容を盛り込みます。

就業規則は、会社における「人」に関する規程の中で、最上位にある、憲法のようなものです。そこでダイバーシティやハラスメントに言及することで、会社の意思をより強く打ち出すことができます。その上で、ハラスメントを容認しないことを扱う規程を、別途、設けるのです。

ハラスメントについての規程では、この4つをそろえるとよいでしょう。

A. 全社員対象の規程
B. 管理職用の規程
C. 事例発生時の対応手順
D. 「ありがちなハラスメント」と「置き換え」の事例集

特に、A. 全社員対象の規程には、

ハラスメントの定義や、やってはいけないこと、に加え、

「意図する精神」と、「意図しない結果」を明記すること をお勧めします。

「意図する精神」とは、例えば、

ダイバーシティを推進するため、

あるいは、

互いに敬意を持ち、皆が、持てる力を最大限に発揮し、ビジネスを成功に導くため、

といった、

目的です。

何のために? です。

「意図しない結果を明記する」とは、

〇〇になっては本末転倒です、という、〇〇にあたるものを、示す、

ということです。

例えば、

この規程は、職場における健全な人間関係を育てることを阻害したり、社員同士が仲良くなることを、妨げるものではありません、

といった文言を盛り込むとよいでしょう。

他には、規程の中に以下のような基本事項を盛り込みます。

– 自己対応の手法 (相手に直接、「いやだからやめてください」とリクエストする -> これは、本人の最初のアクションとして、重要かつ適切です)

– 誰に相談すべきか

– 相談を受けた人のとるべき行動

– 守秘義務

– 報復不可

– 不利益処遇なし(事実に基づき、ハラスメントがあった・疑われると信じて、知らせてきた人に対し、それを理由に不利益な対応をしないことを、組織として約束します

規程のうち、

A. 全社員対象の規程
B. 管理職用の規程
C. 事例発生時の対応手順

は、言ってみれば、お題目です。

お題目に魂を入れるのが、D. 「ありがちなハラスメント」と「置き換え」の事例集 です。

ありがちなハラスメントとは、「深く考えずに、つい、言ったり、やったりしてしまうかもね」そして、「それがあるとないとじゃ、大違いだよね」という、あるある例のことです。

例えば、

– 小さい子供を持つ女子社員に対し、「出張なんかされられない」 と言ったり、

-「〇〇のくせに、そんなこともできないの?」と言ったり、

-「障害者雇用はわかるけど、HIV は困るよね」 と言ったり、です。

「あるある」事例集があると、「確かに、そういうことって、あるよね」「言われたら、いい気はしないよね」という感度を組織の中で共有することができます。

そして、それをどう置き換えるかを伝えるのが、さらに重要です。「ダメ」を伝えるのみならず、「じゃあ、どうすればよいの?」を伝えるのです。

上記の例で言えば、

- 「〇〇の目的で、あなたには、こういうことをして欲しいので、いついつ、XXXの出張をしてもらいたい」「もし、懸念があれば言ってください」と伝えるのです。「小さい子供がいるから出張させられない」と決めつけ、機会を奪うのではなく、「業務命令だから、出張するのはあたりまえ。いやなら男性に変えるまで」と、やみくもに均一を押し付けるでもなく、本人に選択させたり、組織のニーズを伝えたうえで、個人の状況と折り合いをつけるために、何がベストかを話し合うのです。

- 「〇〇のくせに」の〇〇には、たいてい、その人の属性が入りますね。表面的な特徴です。それをとらえて否定的な発言をするのは、どんな場合も、不適切です。置き換えの一例としては「この仕事は、このレベルでやってほしい、という基準を伝えて、そこに、達している・いない、達していないのなら、その原因や、ギャップを埋める方策を話し合う、といったコミュニケーションをとる」です。

- 「障害者雇用はわかるけど、HIV は困るよね」は、別にHIVに限ったことではありません。どう置き換えるかというと、「特定の障害を問題視することなく、職務要件と本人の経験やスキルに基づき、判断する」です。

こういうことを丁寧に言語化して共有すると、「敬意をもって人に接するって、こういうことなんだ」という感度が、組織の中で、育ちます。組織文化を変えていくことにつながります。そのためのツールが、「ありがちなハラスメント」と「置き換え」の事例集です。

これを読んで、そんなめんどくさいこと、いちいち、できないよ~、と言いたくなる方もおられるかもしれません。

相手への敬意があれば、自ずと、人はやります。そして、一見、しちめんどくさそうなことを、愚直にやり続けることが、チームで仕事の成果を出し、高め続けることへの、結局は早道です。

次は、2) 事例発生時の対応体制を作る です。

体制においては、

– 相談窓口
– 解決のためのチーム
– 役割分担
– 解決手順
– タイムライン

といった、「相談や報告があれば、こういう風に、すすめます」という枠組み決めます。そして明文化します。

枠組みはあくまでも枠組みです。想定外のことも起こりますので、その時は、臨機応変に臨めばOKです。

そして、相談窓口の担当者の教育を行います。ハラスメントの相談を受ける者は、相談者の信頼と安心を確保することが重要です。そのため、担当者のための知識とコミュニケーションスキルの教育は必須です。

また、社内の適切なルートに乗せて、解決にあたる必要があるため、担当者には、明確な役割や権限を与える必要があります。

次は、戦略その3 です。

3.社内教育を徹底する。

教育は、組織の方針を現場に根付かせるために、大切です。メッセージを広めていくのです。

教育にも、いろいろ、やり方がありますね。

<スポット>
– 採用前の選考
– 入社時の研修
– 階層別研修
– 規程制定時の研修

とりわけ、管理職、の教育が大切です。職場の環境を整え・向上させ、問題を防ぎ、問題発生時の対応を現場で行うのは管理職の責任です。管理職が、常に、ポジティブな影響をチームに与えるよう、教育します。

<日常>
– ポスター、社内のサイトなどで、周知する

– 日常的に、このテーマを取り上げ、管理職レベル、およびチーム全体で議論する

<問題解決後>

– 事例を関係者で振り返り、そこから学んだことを、職場の質を高めるために、活かす

– 「機密」情報扱いにしたうえで、匿名で、出来事を、管理職の間でシェアする

二番目のアクションは、組織の文化により、可能かどうか、別れるでしょう。実例を、情報を管理したうえで管理職の間でシェアすると、基準がシェアされ、適切な危機感を職場に醸成し、職場の質を高めることに役立ちます。

他にも、できることはたくさんあります。

「教育 = 概念を根付かせるためのコミュニケーション」と考えていただくとわかり易いでしょう。

概念を根付かせつつ、実践もしましょう。

そのための戦略がこれです。その4。

4.事例が発生した場合は、迅速・丁寧・断固を軸として行動する。

これは、問題解決の実務では、極めて重要です。

財務次官の一件で、TV朝日の女性記者が上司に最初に相談した時に、上司が(それが男性であれ女性であれ)、そして組織の上層部がこの原則で動いたら、どうだったでしょうか?

おそらく、財務省に、早い段階で、直接働きかけるなど、組織として、いくらでもできることはあったはずです。

苦情の「受け手」である財務省が、どう反応したかは不明ですが、少なくとも、記者本人が、自分で週刊誌に話を持ち込む結果には、ならなかったのではないでしょうか?

では、迅速・丁寧・断固とは?

<迅速>

「迅速」は、具体的に示すことをお勧めします。

特に初動のスピードが大切です。問題解決を早め、相談・報告してきた社員の信頼を確保するのに直結します。

私はかつて、勤務していた会社の対応手順に、

「ハラスメントの報告があった場合、一営業日以内に対応チームを結成する」

と定め、実行していました。

初動のみならず、その後においても、優先度の高い仕事として取り組むことが重要です。

規程として社内で発表すれば、読んだ社員の安心にもつながります。

<丁寧>

「丁寧」とは、どういうことでしょうか?

一つ一つのステップを大切に扱うことです。例えば、こんな行動が丁寧にあたります。

– きちんと時間をとる

– 当事者に敬意をもって接する

– ハラスメントを受けたとされている人は、痛みを感じていることを受け止める

– プライバシーの保てる場所で聞き取りを行う

– 当事者双方と、必要に応じ、関係する第三者と話す

– 守秘義務を守る

– 事実と解釈 / 行動と感情を分ける

– 予断をもたない

– 客観的である

– ダイバーシティ・ハラスメントを許容せず、の精神に則って意思決定する (そこに敬意はあったか? を問うと、判断しやすいです。)

<断固>

当事者・関係者の地位やビジネスの状況にかかわらず、是々非々で、臨む、ということです。

また、忖度せず、ということでもあります。

よいならよい。

ダメならダメ。

その上で、意思決定します。

難しいのは、「ハラスメントの定義」からするとそうではない、でも、職場の人間関係のあり方、コミュニケーションの取り方として問題があるよね、

という場合です。

結構あります。

その場合は、そうと認定したうえで、

じゃあどうするか?

を考え、人間関係や職場環境の向上につながるアクションを取ります。

ハラスメントだから懲戒に処す。終わり。

そうではないから、何もしない。終わり。

では、ダイバーシティと、ハラスメントを許容せず、の精神にもとります。

生み出すべきものは、働きやすくて、働きがいのある職場なのです。

断固、の概念を補足するために、私が勤務していたアメリカの会社で、ハラスメントに関する規程に、どのようなタイトルがついていたかを、ご紹介します。

Zero Tolerance of Harassment です。略して、Zero Tolerance と言っていました。

米国企業では一般的な表現のようです。

Tolerance とは、Tolerate (許容する)という動詞の名詞形です。

それが Zero なので、一切許容しない、という意味です。

一切、とは、例外なく、ということです。

相手や状況次第で忖度していては、Zero Tolerance ではありません。

したがって、Zero Tolerance of Harassment のポリシー(規程)を作るということは、

「私たちの組織では、例外なく、すべてのハラスメントに、No と言います」

という、組織としての意思表示をすることを意味します。

そして、Zero Tolerance には、もう一つの意味があります。

Tolerate しない、許容しない、と言ってはいますが、なくします、とか、撲滅します、とは言っていません。

私はここに、アメリカの、現実的なものの考え方が現れていると感じます。

人間が集まれば、すべてがクリーンにはならないよね。

出来事は、起こるよね。

それを想定したうえで、

何かが起こった場合、私たちは、それに No と言うよ。

という意思表示だと思うのです。

その軸を持ち続ければ、世の中は、よりよくなっていくはずです。

現実を肯定したうえで、よりよいものに向かうのって、いいな~と思います。

以上が、組織レベルで、やるとよいことです。

最後に、企業の人事を担当していた私の、本音のつぶやきを、二つ書きます。

つぶやき その1  私はなぜ、力をいれたのか?

こんな記事を書くくらいなので、私は、このテーマに熱意をもって取り組んでいました。

でも、事例が発生すると、勘弁してよ~、と言いたかったこともあります。とても時間がかかるからです。

他の仕事がたくさんあっても、最優先事項の一つとして取り組む必要があります。事実確認や、対応策の決定のために、何度も、関係者とミーティングをし、場合によっては、弁護士に相談します。一時的に、他の仕事がストップしたこともありました。

それでもなお、まじめに取り組んでいました。

それはなぜか?

大事だからです。

ハラスメントは、職場の質、人間関係の質、個人の安心感、その結果として、個人と組織が生む成果に大きな影響を与えます。ハラスメントが減れば、離職率を減らし、入社希望者を増やすことにつながります。

大きな問題が起きれば、会社の評判、社会の信頼にも影響します。法的、金銭的な責任が会社に生じることもありますし、消費者からの不買運動、売り上げや株価の低下といったダメージが起きる場合もあります。

従って、会社にとってプラスを増やす意味でも、マイナスのリスクを管理する意味でも、大切な課題なのです。

Google が行った、プロジェクト・アリストテレスという研究で、高いパフォーマンスを出すチームに、唯一共通する特徴は、「心理的安全性」だったそうです。

小林雅一さんという方の記事に、

社員一人ひとりが会社で本来の自分を曝け出すことができること、そして、それを受け入れるための「心理的安全性」、つまり他者への心遣いや共感、理解力を醸成することが、間接的にではあるが、チームの生産性を高めることにつながる。

とあります。

ダイバーシティを推進し、ハラスメントをなくしていくことは、まさに、このことです。

大事だから時間とエネルギーを使う。このシンプルな動機で、私は動いていました。それでよかったのです。

その結果、日本でも有数の(と勝手に思ってます)良質な職場環境を、人事とみんなで作り出しました。その自信はあります。

つぶやき その2 真の原因と真の目的は何なのか?

さきほど、「すべてをクリーンに」を目的としているのでない、と言いました。

そこに補足します。

「すべてをクリーンに」は、そもそもありえないでしょう。というのは、すべてのハラスメントは、同じ出来事についての、AさんとBさんの認識が異なることから発生しているからです。

人は一人一人違うので、一つの出来事について、AさんとBさんの見方が完全に一致することはありません。Aさんはよいと思って言ったり、やったりしたことでも、Bさんにとっては、そうではないことは、いくらでも起こり得ます。

そこに生じるギャップが、Bさんにとって許容範囲内であれば、「そういう見方もあるよね」「ま、いいか」などで終わり、ハラスメントの訴えにはなりません。

Bさんの許容範囲を超えた場合に、ハラスメントの訴えに発展し得るのです。

大きな問題を防止するためには、Bさんが「許容範囲ではあるけど、ちょっとした違和感」を感じた時に、それを 素直にサラッと 相手に伝え、相手のAさんも、「あっ、そうなんだ。そういう風に、解釈されたんだ」と気づき、素直にサラッと 「ごめんね」と言うのが一番です。

素直にサラッと、の言い方として、おススメは「それってセクハラ!」です。

そして、Aさんが、よかれと思った「自分の意図」を説明したければ、「〇〇のつもりで言ったんだけど、ことばが足らなかった」なんて、加えればよいのです。

自分の意図をあらゆる角度から点検して、なお、本当に自信があれば、堂々と説明すればよいのです。

すると、Bさんにとって、学習の機会が生まれます。例えば、「私は、いやだと思ったけど、Aさんに、その意図はなかったんだ。Aさんは、そういう言い方をしただけなんだ」と。

そうやって、Bさんは、自分とAさんの理解を深めます。Aさんの言動を受容するか、やめて欲しい、変えて欲しいと望み続けるかは、Bさんが自分で選べばよいのです。我慢とも、文句とも異なります。

そういうコミュニケーションを重ねることで、互いのものの考え方、発信の仕方、受信の仕方、許容範囲がわかってきて、相互理解が深まります。そうすると、仕事がしやすくなります。互いの連携で、成果も出しやすくなります。

そのような環境があると、仕事そのもの(協力してゴールを達成する過程)を、みんなの連携で進める力が高まります。何か困難な状況に直面しても、力を集めて乗り切ることができます。

人と人とが、違いを理解し違いを越えて、連帯、すなわちより大きな同一に達した時、とてつもないパワーを得ます。

それこそが、ダイバーシティ、そしてハラスメントを許容せずの文化を組織に作る目的であり、みんなが享受する益なのです。

坂本 夏子
– 人事コンサルタント
– トランスフォメーショナル・コーチ®
– LABプロファイル®
マスターコンサルタント